本文へスキップ
← ブログ一覧へ戻る
コミュニティ

2026年7月29日 · 文:Kiyo Darner · 約5分

壁に掛かっているものは、ほとんどお客さまからいただいたものです

壁のものをどこで揃えたのかとよく聞かれるのですが、正直に言うと、ほとんど揃えていません。集まってきました。

自分たちで選んだもの

聚楽は、後ろに資金があって始まった店ではありません。飲食で長くやってきた三人が、コーヒーショップ兼ワインバーだった場所を引き継いで、残せるものは残したまま、その上から手を入れた店です。

自分たちで掛けたのは、レンガの壁に並べた日本の古い看板です。多くはビールの広告で、一枚だけ蚊取り線香のものがあります。みんなが足を止めるのはその一枚です。

あの看板は日本では独立したジャンルです。ホーロー看板といって、鉄板に釉薬を焼き付けたもので、明治から昭和の中頃まで、雑誌を読まない人たちに商品を届ける手段でした。営業の人が地方を回って、店や小屋や誰かの家の壁に打ち付ける。看板料が現金ではなく現物で払われることも多かったそうです。1970年代、プラスチックのほうが安くなると姿を消していきました。蚊取り線香とビールはその代表格なので、両方が並んだ壁は、七十年ほどの日本の道端をわりと正確に再現していることになります。

棚にはだるまと、日本の古い玩具を置きました。壁にはごく普通の版画も掛けていました。版画にしたかったのではなく、当時は絵を描く人を誰も知らなかったからです。いまある関係はどれも年数をかけて出来たもので、開店時には一つもありませんでした。

なぜだるまなのか

うちのロゴはだるまの形をしています。これは意図的です。

だるまは達磨大師をかたどった、底に重心のある中空の起き上がり小法師で、その構造が意味そのものです。倒しても、自分で起き上がる。付いている言葉が七転び八起き。そして両目は白いまま届きます。願を掛けるときに片目を入れ、叶ったときにもう片目を入れる。

後ろ盾なしで店を開ける三人にとって、控えめな選択ではありませんでした。

そこから、部屋が勝手に埋まっていきました

いま棚を埋めているアニメのフィギュアや小物は、ほぼ全部がお客さまからのものです。壁の絵もほとんどがそうです。

誰かが仕切ったわけではありません。人が何かを持ってくるようになり、こちらがそれを掛けるようになり、あるときから、この部屋は自分たちが飾った場所ではなく、誰がここにいたかの記録になりました。

チチの部屋

いちばん分かりやすい例が、壁を一面まるごと使っています。

セシリア・ゴールトより先に、彼女のお父さんと知り合いました。本人に会ったとき、ポスターか何かを買わせてもらえないかと聞きました。条件は、うちの壁に掛けさせてもらうこと。しばらくして届いたのは、ファーストアルバムのポスターに、うちへのサインが入ったものでした。

それから彼女は通うようになり、常連になり、友人になりました。彼女のためのカクテルを二つ作りました。ヒダリチチとミギチチです。メニューには載せず、彼女のために作るだけのものでしたが、本人がインスタのストーリーに上げるので、名指しで注文が入るようになり、結局メニューに入れました。

そのあと、そのカクテルの撮影をお願いしました。撮影自体が一本の話になるので、ここでは書きません。出来上がったのは、80年代から90年代の日本のビール広告の意匠で作られたポスター二枚。部屋の反対側の壁が、百年先んじて同じことをやっていたわけです。

名前についても書いておきます。ヒダリとミギは左と右です。おばあさまに聞かれたら、ポスターが左と右に掛かっているからだとお答えください。事実ですし、こちらが先に出す説明もそれです。日本語が読める方は十秒前に気づいていると思います。チチは父でもあり、乳でもある。子どもっぽい冗談です。そうでないふりはしません。

アヤカが「Chichi's Room」のネオンサインを作ってくれたので、いまはもう通称ではなく、看板が出ています。最後にセシリアのサイン入りギターを掛けて、あの壁は完成しました。

その隣の二面

次の壁はTEN TENに譲りました。毎週水曜にここで集まっているアートのNPOです。額縁が二つと、デジタルの表示装置が一つ。中身を変えるのに金槌を出さずに済みます。

その隣がOMRCの壁です。Old Man Running Club、冬のあいだのホームベースとしてうちを使ってくれています。

あとは店内に散らばっている、この八年でお客さまからいただいたもの。数えきれませんし、数えられないことがそのまま答えです。

この部屋が何なのか

入ってきて、よく作り込まれていると思われたなら、そうではありません。この壁の上で自分たちが決めたのは二つだけです。看板と、だるま。あとは全部、ここに何か持ってこようと思った人たちが残していったものです。

お金で買えるどんな内装より良い結果ですし、開店時の予算に組み込める項目でもありません。八年待って、そうなるかどうかを見るしかない類のものです。