2026年8月28日 · 文:Kiyo Darner · 約7分
純米・吟醸・大吟醸・本醸造は何が違うのか
日本酒のリストを指さして「どれがいちばん上等なんですか」と聞かれることがよくあります。答えはあります。大吟醸です。ただ、その答えは役に立つより誤解を招きます。
特定名称はたしかに何かに順位をつけています。ただし順位をつけているのは一つの性質だけで、それはあなたがその一杯を気に入るかどうかとは別です。その話をする前に、まずラベルを分解します。
あの言葉はどれも、二つの別々の事実をくっつけて書いたものです。ひとつはタンクに何を入れたかの話。もうひとつは、その前に米をどれだけ削ったかの話。分けて読めば、リストは謎ではなくなります。
純米は「何が入っているか」
純米とは、米と米麹と水だけ。原料表示はそれで終わりです。
そうでないものには、仕込みの後半で醸造アルコールが少量加えられています。ラベルに純米と書いていなければ、たいていそういう意味です。
つまり純米は品質の印ではありません。原料の申告であって、これが二つの事実のうちのひとつめです。
吟醸は「米をどれだけ削ったか」
ふたつめが精米歩合です。
精米歩合は、削ったあとに残っている割合を指します。数字が小さいほど多く削っています。60パーセントなら、外側の40パーセントは落ちています。外側の脂質やたんぱく質を削り、中心のでんぷん質に向かって切り込んでいく作業です。
吟醸は60パーセント以下、大吟醸は50パーセント以下と決められています。
そして吟醸は数字だけではなく造り方でもあります。低温で時間をかけて発酵させる。あの果実や花の香りはそこから出てきます。60まで削ればいい、という話ではありません。
純米大吟醸という名前ができる理由
事実が二つ、軸が二つ、そして互いに独立しています。
純米大吟醸は、何も加えず、50パーセント以下まで削った酒。ただの大吟醸は、50パーセント以下まで削って醸造アルコールを少し加えた酒。どちらも正規の造りで、上下ではなく別物です。
名前が長くなるのはそのためです。独立した二つの事実を重ねて書いているだけです。
いちばん意外なところ
純米には精米歩合の規定がありません。
八つある特定名称のうち、数字が一切ついていないのは純米だけです。70パーセントでも35パーセントでも、純米は純米です。
昔はありました。2004年まで純米は70パーセント以下と決められていて、その要件が外されました。造りの技術が進んで、その数字が語れることが少なくなったからです。
これを知っておくとリストの見え方が変わります。素っ気ない名前の一本が、長い名前の一本と同じくらい磨かれていることがあるからです。
本醸造は「安いほう」ではありません
本醸造は70パーセント以下まで削り、醸造アルコールを加えたもの。ただし量に上限があります。白米の重量の10パーセントを超えてはいけません。
この上限が大事です。醸造アルコールという言葉についてまわる悪い評判は、上限のない大量生産の酒から来たものだからです。少量を後半で加えると、もろみから香りが引き出され、酒は軽く辛口に寄ります。手抜きではなく技術です。
いま、うちのリストに本醸造はありません。これはカテゴリーへの評価ではなく、単にうちの抜けです。
特別と書いてあるときは何か言おうとしています
特別純米は、60パーセント以下または特別な製造方法、というどちらかを満たしたものです。製造方法のほうで名乗る場合は、その方法を表示しなければいけません。
見かけたら読む価値があります。誰かが選んでそこに書いています。
名前ではなく数字を読む
うちのリストで、削った順に並べるとこうなります。
獺祭 23、精米歩合23パーセント。純米大吟醸。
八海山 45、精米歩合45パーセント。純米大吟醸。
鯉川 辛口、精米歩合55パーセント。特別純米。
綾菊 さぬきオリーブ、精米歩合60パーセント。ただの純米。
数字はきれいに下がっていきます。名前はついてきません。下の二本は吟醸の基準に届いているか、それを越えていますが、どちらにも吟醸とは書かれていません。
間違いでも謙遜でもありません。その蔵は違うものを造っていて、名前はそれを正確に説明しています。鯉川は日本酒度プラス12の超辛口へ向かっていて、綾菊は自分たちのオリーブ酵母が出すものを追いかけています。香り高い吟醸を目指していないから、吟醸と名乗っていないだけです。
八つすべてに共通していること
本醸造から純米大吟醸まで、特定名称を名乗るには麹米の使用割合が15パーセント以上でなければいけません。
麹は米のでんぷんを糖に変えて、酵母が食べられるようにするカビです。15パーセントという下限はどの名称にも同じようにかかっています。リストのどの高さでも、麹は同じ仕事をしているということです。
序列はある。測っているのは「きれいさ」
ここまでは仕組みの話です。注文するときに効いてくるのはここからです。
基準そのものに評価が入っています。大吟醸は「香味が特に優良」であること、吟醸は「香味が優良」であること。紙の上では、よく磨いた大吟醸がいちばん上に来ます。技術的にはそのとおりです。
では何を測っているのか。きれいさです。日本酒の良さは、なめらかで、澄んでいて、精度が高いほうへ向かう。そこへ行く手段が米を削ることです。そのものさしで測るなら、いちばん磨いた一本がいちばん上等な一本になります。
そのものさしは、そのままでは海を渡りません。
うちのリストでいちばんわかりやすいのが獺祭 23です。精米歩合23パーセント、味のついた水のような飲み口です。これは褒め言葉です。繊細で、とてもよくできています。ただ、こちらでは日本酒をゆっくりではなく速く飲む人が多い。ああいう一杯を一息で空けたら、ほとんど何も残りません。味がない酒だったと思って帰ることになります。
味はあります。静かなだけで、急がされると消えてしまう。
だから特定名称は、実在するものの実在する序列です。その蔵がどこまできれいさへ向かったかを教えてくれる。今夜のあなたがきれいさを求めているかどうかは、教えてくれません。
ここからの頼み方
名前は、一つのことだけの点数として読んでください。
二つの事実として読んでください。
純米かどうかで、何か加えられているかがわかります。吟醸や大吟醸という言葉で、どれだけ削ったか、蔵がだいたい何を狙っていたかがわかります。どちらも、あなたがそれを好きかどうかは教えてくれません。
読むより飲んでみたければ、店に来てください。よく磨いた一本と、ただの純米を並べてお出しします。どちらが自分の酒か、飲んで決めてもらうのがいちばん早いです。メニューの続きはこちら。
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