本文へスキップ
← ブログ一覧へ戻る
料理

2026年8月24日 · 文:Kiyo Darner · 約3分

たこわさと、ビールがもう一杯ほしくなる理由

日本に住んでいた頃、たこわさがメニューにあれば頼んでいました。検討したのではなく、頼んでいました。どこかにきっと、僕のおかげで子どもを学校に通わせられたたこ漁師の一家がいると思います。

うちのメニューにもありますが、アメリカの方はまず食べたことがありません。そこをなんとかしたい。

そもそも何なのか

たこわさは、生のたこを小さく切ってわさびで和えたもの。それだけの料理です。日本の居酒屋ではもっとも定番の部類で、位置づけとしては枝豆に近い。わざわざ考えて頼むものではなく、そこにあって、すぐ出てくる。

早さも、どこにでもある理由のひとつです。仕込んで冷蔵庫に入れてあるので、頼んで90秒ほどで卓に届く。最初の一皿としては、これがかなり効きます。

手間がかかっているところ

見た目のわりに、作るほうは気楽ではありません。しかも一手間が、ほとんどの仕事をしています。

生のたこはぬめっています。この「ぬめり」を放っておくと、問題が二つ起きます。食感がすっきりせず粘つくこと。そして味が中に入らず、表面を滑ってしまうこと。だからたこは塩でしっかり揉んで、流水でぬめりが落ちきるまで洗います。ここを飛ばすと、どんなにいいわさびを使っても取り返せません。

そのあと一口大に切って和え、寝かせます。冷蔵庫の時間は待ちではなく仕事です。味がたこの外側に乗っているだけでなく、中に入るまでには数時間かかります。

わさびと、茎の話

日本の外ではあまり知られていないことがあります。本来のたこわさは、すりおろした根ではなく、わさびのを使って作られることが多いのです。

茎を刻んで漬けたものは、ペーストにはないものを持ち込みます。根から得られるのは辛さで、だいたいそれだけ。茎はそこに、繊維のある小気味よい歯ざわりが加わります。つまりわさびが、味だけでなく食感としても料理に参加している。

日本の家庭のレシピではチューブのわさびで代用しますし、それはそれで問題ありません。冷蔵庫にあるのはたいていそちらです。ただ、寿司の脇にある緑の塊としてしかわさびを知らない方にとって、茎は本当に別の食材です。

なぜ、ビールなのか

ここが本題です。

たこわさは、コリコリしています。生のたこ特有の、弾力があって歯を押し返してくる、あの食感です。ゆでたたことも、ほかのどんな魚介とも違います。

順番としては、コリコリ、そして塩気、そしてわさびが鼻に抜けてすっと消える。この三つはどれも、冷たいものが飲みたくなる理由です。そしてビールは、三つ同時に答えてくれます。炭酸が口をリセットし、冷たさがわさびの辛さを消し、麦の甘みが塩気を受け止める。

気がつくと口の中は空で、目の前にはまだたこがある。そしてまた同じ輪が回りはじめます。これが酒の肴であるのは偶然ではありません。誰かがそう設計したのかは分かりませんが、ビールをもう一杯頼ませるようにできています。

頼む前に

生です。炙りでも霜降りでもなく、本当に生なので、うちのメニューでは手巻きやクリスピーライスと同じく(*)がついています。

それで問題なければ、早いうちに、冷たいビールと一緒にどうぞ。何かの付け合わせとして頼むものではありません。ほかに何を頼むか考えているあいだに食べるものです。