2026年8月25日 · 文:Kiyo Darner · 約4分
山崎12年で、うちが何も小細工をしない理由
ここで書くことの多くには、裏側に何かがあります。組み立てたドリンク、誰かに頼まれて考えた一杯、意見の割れた技術の話。
山崎12年には、そういうものが何もありません。グラスに注いでお出しする。以上です。
それでも書いておく価値はあると思っています。何も小細工をしない、その理由のほうが面白いからです。
どんなウイスキーか
山崎はサントリー最初の蒸溜所であり、日本で最初の蒸溜所でもあります。1923年、三つの川が合わさる京都郊外の谷に建てられました。
12年は、三通りの樽で熟成した原酒を組み合わせています。バニラとやわらかな果実を与えるアメリカンオーク。奥行きを与えるスペインのシェリー樽。そして日本のミズナラ。
知っておく価値があるのはミズナラです。日本のオークで、樽材として使えるようになるまでにおよそ200年かかります。そのうえ扱いが難しい。多孔質で、漏れやすく、加工しにくい。その代わりに返ってくるのが、白檀やお香を思わせる香りです。ウイスキーでこれを出せるものは、ほとんどありません。サントリーの樽全体から見ればごくわずかで、「日本のウイスキーらしい」と言われるときに指されているのは、たいていこの香りです。
まず桃とパイナップル、続いてバニラとクローブ、その下にお香の気配。
希少なのは、じつは数字のほう
ここが、意外に思われるところです。
1990年代、日本国内のウイスキー需要は急激に落ち込み、蒸溜所は生産を大きく絞りました。当時としては当然の判断です。ところが2010年代に入って日本のウイスキーが各種の賞を総なめにし、世界中が求めはじめたとき、それに応えるための原酒は、15年前にすでに「作らない」と決められていました。
これは急いで直せません。12年は12年です。途中で取り返せる工程はどこにもありません。
その結果が、うちの棚にある日本のウイスキーの多くに年数表記がないことにつながっています。12年物を棚に置き続けられるだけの12年熟成の原酒を確保できないとき、蔵は数字を刷るのをやめ、蔵の味に合わせてブレンドします。これは格下げではありません。うちで出している中でも指折りの一本が、まさにこの理由でノンエイジです。ただ、年数表記は「当たり前のもの」から「裏付けられる蔵だけが掲げられるもの」に変わりました。
20年前ならただの数字だったものが、いまは2014年から守り続けてきた約束になっている、ということです。
価格について
安い一杯ではありませんし、そうでないふりをするつもりもありません。
山崎12年はこの十年で価格がずいぶん上がりましたし、割り当て制です。注文した本数ではなく、届いた本数で商売しています。価格が動くのは、ウイスキーが変わったからではありません。中身は同じです。ただ希少で、そのことに世界中が同時に気づいた、というだけです。
黙って量を減らすより、そう書いてしまうほうがいいと思っています。
飲み方
常温で、小さめのグラスにストレート。すぐに口をつけず、少し置いてから。
長く飲みたい方には、ハイボールで選べる3種のうちの一つです。三杯は飲まない日のための一杯。うちの炭酸はあえて弱めに設定していて、この一本にはそれが合います。泡で舌を洗い流したいウイスキーではないからです。
やらないほうがいいのは、これを軸にカクテルを組むこと。畏れ多いからでも、まずくなるからでもありません。繊細なのはミズナラの香りで、砂糖やビターズやベルモットを入れると、その上に乗って平らにしてしまいます。山崎の値段を払って、いちばん先に消えるものにお金を出すことになる。それなら、もっと安いウイスキーのほうがその仕事は上手にこなします。
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